かすまきの世迷言

がんばってかきます。飽きたらやめます。人間だもの。

そうだ、京都いこう。

このどこかJRのキャッチコピーを思わせるフレーズは私の口から漏れ出た。秋風も吹き肌寒くなった10月の暮れ、私は大阪にて予定が破綻し途方に暮れていた。なにわの粉物も喉を通らず、あてもなく商店街を徘徊しているとき口から漏れた。

そうだ、京都いこう。

調べてみると大阪と京都は京阪電車を使えば距離的にも金銭的にも時間的にも意外と近いのだ。私は着の身着のまま京阪電車に乗り、京都を目指した。

ムシャクシャして行った後悔はしていない....


f:id:daizu_hima:20211112205314j:image

f:id:daizu_hima:20211112205224j:image

これは柿の葉寿司。酢飯の上に魚の切り身が乗っているという簡素なものであるがその味は無類である。京阪電車に揺られていた私は京都舞台の森見登美彦著『四畳半神話大系』をぺらぺらめくり、来るべき京へと士気を高めていた。道中、我らが任天堂元締にも敬礼した。(「どうぶつの森」の島の管理も「カリギュラ」のメビウス攻略も放ったままであったが、この際それは棚に上げておこう)

 

そんなこんなで京都駅、もうすぐ陽も落ちようかという頃合であった。

思えば京都は中学のクソガキ時代以来である。当時は次に京へ赴く際は甘酸っぱいデートコースで〜♡なんて純金製の未来へ想いを馳せたものであったが未だ恋人いない歴=年齢という有様は何故か。責任者に問い質す必要がある。責任者はどこか。

おかげで京の歩き方など心得えがない。とりあえず私は自転車を借りて気の向くままに走らせた。

ただただ街並みを眺めながらあくせく漕いでいるだけではあったが、木造建築の古民家や町屋、時折神社や寺が移ろったりして、そういったものを眺めるだけで結構楽しかった。

f:id:daizu_hima:20211112215848j:image

科捜研の女」聖地である京都府警本部、そして京都御所を横切って『四畳半神話大系』聖地である加茂大橋京都大学学部棟付近まできた。陽は落ちきって京都の観光地は閉めきっているようだったので、自転車を返却しバスに乗って京都駅へと舞い戻った。

f:id:daizu_hima:20211112220423j:image

f:id:daizu_hima:20211112220646j:image

疲れた。肉体的にも精神的にも。とくに破綻した大阪の予定で精神的に追い詰められていたのが大きかった。私はそういった考えてもどうしようもない物事をあれこれ考えて涙を流している自分を発見した。通行人の視線が痛い、私は京都駅の駐輪場で独りうずくまって泣いた。すると2人ばかり心配して声をかけてくれた。京都人優しい。京都大好き。もういっそ京都に住みたい!!!

私は一体何をしているのだ、並びにどこへ向かおうとしているのか。なぜこうもやることなすことうまくいかないのだ。私はこうしたやむにやまれぬ思いをエチルアルコールへとぶつけることにした。というか居酒屋以外の店が開いていなかった。はじめての日本酒にも挑戦した。

f:id:daizu_hima:20211113001404j:image

お酒は年々弱くなってきており2合とちょっと飲むと適度に酔った。天井のシミを数えていたところ、ホクロのチャーミングな店員さんが店を閉めると言うので会計を済ませ店を出た。近くのコンビニで買ったアル中虎の巻、通称ストロングゼロを片手に行くあてもなく歩いた。ここが人生の辞めどきか、いっそこのまま鴨川で寝て凍死してみようか。そこが私の三途の川と見つけたり。そんなわけの分からない繰り言が頭を過ぎって、気づけば河原町を歩いてた。

f:id:daizu_hima:20211127054929j:image

そしてちょうど日をまたいだ頃。

「お姉さん」

見ると好青年である。関西人はあまり人見知りしないのだろうか。

「僕友達とラウワン行こうって言ってたのに置いていかれたんです、酷くないですか!?」

「はぁ、なるほど。」

「そこでお姉さん一緒にラウワン行きませんか!?」

声掛け案件である。

「私男ですし、いろいろご一緒できないと思いますよ?」

語るに落ちた。普段明かしたところで十中八九雑に扱われ始めるから自分では決して言わないようにしていたが、自暴自棄になりアルコールガンギマリなのも相まってぽろっとこぼしてしまった。

「えっ!?それは女から男にってやつですか?」

「いや、普通の性同一性障害です。元男です。」

「顔整ってますね」

「あまり言われたことないですね。でもありがとうございます。」

「これからどこへ行くんです?」

「鴨川で寝るんです。これはさっき買ったストロングゼロです。飲みませんか?」

「僕未成年なので飲めないんです。それでは。」

そういって青年は去って行った。この意気地無し。ナンパするのはいいが、相手が元男だったというだけで手のひら返して忌避しようとする男気の無さでは意中の乙女も君になびくまい。

その後鴨川へやってきたわけだがこれがバカみたいに寒い。そして横になれる場所がない。架橋下のベンチは丸太のようになっておりホームレス排除に積極的な作りになっていた。たいへん遺憾である。以前見たテレビ企画で平均台の上では一夜を越すこともままならないという結果だったのを思い出した。私は鴨川を諦め、商店街のなかに雨風をしのげる一角を見つけてうずくまって泣いた。そのまま空にした酒缶を抱いて寝た。その後通勤客の足音で目を覚まし、近くのネットカフェへ寝床を移した。かくして私は日本酒路上睡眠という2つの"はじめて"を京都で奪われたわけだが、未だ純潔を貫き聖女のまま2日目を迎えたのである。

f:id:daizu_hima:20211127055027j:image

 

 

京都2日目、私はシャワーを浴び紅茶を飲んで優雅な午後を迎えていた。腰は痛かった。ともあれせっかくだからもう少し京都を見て回ることにした。まずは森見登美彦著『有頂天家族』聖地である下鴨神社である。ここは世界遺産に登録されているらしい歴史深い場所なのだそうだが、コロナウィルスによる渡航制限もあってこの時期の京都にしては観光客も少なくゆったり回れた。

f:id:daizu_hima:20211113023138j:image
f:id:daizu_hima:20211113023144j:image
f:id:daizu_hima:20211113023219j:image
f:id:daizu_hima:20211113023147j:image
f:id:daizu_hima:20211113023140j:image

みずみくじ、大方当たっている。それも悪い方に。下鴨神社参道糺の森を抜けると河合神社がある。河合神社で祀られている神様は日本第一の美麗神ということでこちらにも参拝した。私のようにヘンテコ養殖モノの乙女に女性守護とやらが適応されるのかは分からないが、私は確かに聖女であるし問題なかろう。美少女になれるよう願掛けをして美麗祈願守も買った。今でも鏡の裏に貼ってある。

f:id:daizu_hima:20211127055525j:image
f:id:daizu_hima:20211127055522j:image

その後バスに乗り、八坂神社へ向かった。ここでも世界平和と美少女になれるようにと願掛けを行い、清水の道へと歩を進めた。

f:id:daizu_hima:20211113032241j:image

f:id:daizu_hima:20211127060007j:image
f:id:daizu_hima:20211113032244j:image
f:id:daizu_hima:20211113032247j:image

道中、唐辛子を買ったり湯葉揚げを食べたりと修学旅行中の乙女さながらの寄り道っぷりの私ではあったが、夕刻には清水寺へとたどり着いた。夕焼けの綺麗な頃合いであった。こうやって独り黄昏れるのもいいだろう。

f:id:daizu_hima:20211113031627j:image

f:id:daizu_hima:20211127060226j:image
f:id:daizu_hima:20211113033102j:image
f:id:daizu_hima:20211113031625j:image
f:id:daizu_hima:20211113031619j:image
f:id:daizu_hima:20211113032434j:image

清水からの帰り道で湯葉の店を見つけ入ったが、この日はクソガkもとい修学旅行生達の微笑ましい会食で貸切だというから、私はなくなく湯葉揚げを食べた。それから私も目を閉じ幻のJK時代に舞い戻り、京都修学旅行へと駆り出した。帰りの京都駅行バスでみた白昼夢であった。こうして酸いも甘いも凝縮された京都観光は終わった。また訪れたい。いつの日か。